| パース通信>広瀬寿武小説集 | |
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コンピュ−タ−が生活の中に無くてはならない時代になり、それと共に人 間の生き方も、想像を越えた様変わりをして価値観も多様性を帯びている. コンピュ−タ−に向かってキ−を打てば、今まで気後れして寄りつけなかっ た世界を簡単に、しかも密やかに覗くことが出来る.出てきた画面と文面は 後ろめたい興味を誘い、つい、その先を期待してキ−を叩き続ける.しかも 相手は密室の中のコンピュ−タ−と打ち手だけ. 打ち手は性別、年齢等何の拘束も無い. ホテルのロビ−の一角. 女は黄色地になん色かの横縞模様が何本も細く太く入った、Tシャツ風な 上に薄手のブル−カラ−のジャケット.スカ−トは黄色のミニ.少し太めの 足に白の靴. 膝に置いた黒のバックに造化の黄色い花がはっきり目立つ. 撫ぜ付けたばかりの髪型を短めに纏めてはいるが、化粧の所々に若さ故意に 強調する陰が浮かび、待ち人を探す目尻の年輪も、着ている物の華やかさと 何処か違う.だが、女らしさを盛り上げようとするいじらしい雰囲気に女の 心境が感じられる. 薄茶のWの背広に茶のメッシュの靴.背丈は175位、スポ−ツマンタイ プのがっしりした体、30代後半から40代半ばの男の色気を主張しいる. ただ、これ見よがしに手にした女性雑誌が不自然な姿に写る. じりじりと落ち着かない女が立ち上がり、ロビ−を不安げに目だけで探し 物を追う.女の足が小刻みに早まって女性雑誌の男に側に寄る. 挨拶する女の腰の揺れに嬉しさが溢れ語りを伝える.女から求めた男を見つ けた一瞬. 自信に満ちた男の手が初対面の女の腰を促す.流れるようにラウンジで向か い合い、コ−ヒ−を間に女は媚を忘れず、目の奥で男の品定めを急ぐ. 男は女の肉体の中から発する年齢の色香を感じ取るゲ−ムに余念がない. コンピュ−タ−を覗きあった「出会い系サイト」での出会い. 数回のメ−ルの交換からの出会い.女の方からの積極的な誘い. 顔が見えないコンピュ−タ−の中では羞恥心も半減し、嘘も嘘と思わず話し かけられる.それが想像の中で膨らみ刺激を増長する. 女は燃えた.自信が有った男は重なる要求にたじろぎ悲鳴を上げた. 女はそれでも「まだまだ、駄目よ!」馬乗りになり萎えた柱を全身を使い、 うなりながら奮い立たせ、この世の最後と言わんばかりに狂乱の舞いを演じ 続けた. 「ああ、良かった.最高よ.コンピュ−タ−って私の生き甲斐だわ」 地方都市に有る会計事務所. 「お昼、何食べる.中華にする?」 「いいわよ.あやさん、今日もお弁当?」 「そう、私は年でしょう.だから地味に生活しなきゃ」 「お金貯めるだけではつまんないわよ」 「そうね、でも、他に楽しみがないから」 女は事務所に残り書類の山を整理しながら、ばさついた髪をかき上げ、色気 の全く無い、着古した上着のポケットから使い掛けの塵紙を取り出し、息を 吹きかけた眼鏡をゆっくりと拭く. あの黄色地のミニスカ−トを自ら脱ぎ捨て、陶酔した面影は何処にも無い. パース通信 |